2018PCカンファレンスの全体テーマ「ひらめき ときめき はばたき」は、「AI時代において人間とは何か、人の学びとは何か」を意識して名づけられました。PCカンファレンスが誇る伝統の一つ「イブニングセッション」は、まさに人間ならではの「交流」や「想像」の創発をねらった参加者自主企画です。Special第17回では、今回の全体テーマを象徴する「イブニングセッション」の報告を、順次公開していきます。ぜひご覧ください。

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本当にあった怖いIT不活用ばなし〜大学働き方改革のために〜

主催者: 木村修平(立命館大学生命科学部准教授)
共催者: 長澤直子(大阪成蹊短期大学講師/立命館大学大学院社会学研究科院生)


会場の電気を消して数々の怪談話が披露された。


筆者(木村)は長澤直子氏(大阪成蹊短期大学講師/立命館大学大学院社会学研究科院生)とともにイブニングセッションを担当した。このセッションでは、大学の仕事にまつわる様々な「IT不活用ばなし」を参加者と共有しその解決策を探った。

IT不活用ばなしとは、本来であれば人間の仕事を効率化するために使用されるはずのITが、かえって人間を苦しめることになっている事象を意味する。このセッションでは、主催の木村と長澤氏を中心に身の毛もよだつIT不活用の事例が怪談話になぞらえて発表された。


おどろおどろしいオバケがデザインされたスライド。


会場を特に沸かせたのは長澤氏が実際に遭遇した数々のMicrosoft Officeにまつわる恐怖体験だった。なかでも筆者が度肝を抜かれたのは、Wordでテキストの下部に引く直線(いわゆる下線)と四方に引く直線(いわゆる囲み線)が、すべてオートシェイプの直線で表現されている事例だった。


長澤氏が報告した恐るべき下線と囲み線。木村がWordで再現した。


上図は長澤氏の報告した事例を後日筆者がWordで再現したものだが、たったこれだけのサンプルを作るだけでも非常に時間がかかった。ただ、紙に印刷すればWordの標準機能である下線や囲み線との区別はつかないかもしれない。

これはかなり極端な例だが、本セッションで主催者である筆者らが共有したかった2つの問題意識を象徴しているとも言える。

  • ITは使い方を誤ると必要以上に手間と時間を浪費させる原因となる。
  • 紙に印刷すればデータがどのように作られたかは見えない。

こうした非効率なITの使用事例のうち、近年全国的に大きな注目を集めたのは表計算ソフトのExcelでセルを方眼紙のように駆使する、いわゆる「ネ申Excel」問題だ。

この問題の詳細はセッションでも触れた奥村先生(三重大学)の論文に譲るが、なぜこうした現象が起こってしまうのか?セッション参加者全員が納得したのは、こうした不合理なファイルを作成してしまう背景にあるのは、最終的に紙に印刷することが想定されているワークフローがあるのではないかというものだった。

たしかに日本では証憑書類に印鑑を押すことで業務完了とみなされるケースが非常に多い。それゆえに紙への印刷を想定してソフトウェアが本来の用途とは外れた使い方をされ、IT不活用が広がる原因になっている可能性がある。そして、イノベーションを求められる組織であるはずの大学の現場がまさにこうした事例の宝庫となっていることは皮肉というほかない。

その他にも、学生が大学ドメインのメールアドレスをほとんどチェックしておらず事務から教員にLINE経由で連絡を取るよう依頼があった事例や、大学サイトの更新に使いにくいCMSを採用してしまったばかりにわずかな変更を外注業者に委託せざるをえなかった事例など、まさに身の毛もよだつ報告が相次ぎ、あっという間に予定時間となってしまった。

セッションは、せめて自分たちはこのような怪談話をこれ以上発生させないよう、それぞれの現場でITを正しく活用しようという結論でしめくくられた。

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