今回のSpecialでは、PCカンファレンス初の試みである「ラーニングスタジオ」の報告を掲載します。ラーニングスタジオは同時刻に、8つのテーマでパラレルに展開されました。ご自身が参加したスタジオはもちろん、他のラーニングスタジオについても“創造する学び”の一端をお楽しみください。

2017PCCラーニングスタジオ一覧に戻る

高校生プロジェクトが誕生する生態系とは?

今村亮 (認定NPO法人カタリバ マネージングディレクター)


今村亮 (認定NPO法人カタリバ マネージングディレクター)

高校生が主役となるプロジェクトが注目を集めています。三重県多気町「高校生レストラン」や、福井県鯖江市「JK課」、宮崎県えびの市「飯野高校3年B組×曽我部恵一」など事例に事欠きません。従来より農業高校や商業高校など専門高校ではこうした取組が盛んでしたが、今では普通科での展開も広がっており、この流れに次期学習指導要領の検討が拍車をかけています。

ただしプロジェクトにおいて、高校生の参加が大人の「操り」や「お飾り」になってしまっては本末転倒です。プロジェクト学習をデザインする際には、その活動が本当に高校生の学びにつながっているか、指導者は注意深く点検する必要があります。

そこで、私のラーニングスタジオには高校時代にプロジェクトに取り組んだ二人の学生(すず・ななみ)をゲストに招きました。参加者二人の事例をインタビューしていただき、過去を辿りながら、「高校生プロジェクト」のあるべき理想像についてディスカッションしました。

一人目のすずが神奈川県川崎市で取り組んだのは、子ども支援プロジェクト「声でつなぐ」。放送部での活動を、部内に限定せず地域に飛び出して行おうというものでした。独りで始めたプロジェクトでしたが、勇気を出して部内の同級生を巻き込んだ結果、友人関係がより深まった様子が語られました。

二人目のななみが宮城県仙台市で取り組んだのは防災プロジェクト「イマココミライ」。宮城県内の被災格差を埋め合わせるための写真展やワークショップの活動です。学校から活動を認めてもらえず、先生との衝突に苦しんだ体験が語られました。

二人の体験談から導き出されたのは、「高校生プロジェクト」の意義とは何か、という問でした。プロジェクト活動が社会に与えるインパクトと置くこともできますが、それ以上に注目すべきは本人にもたらす学びの深さでした。プロジェクトが成功しようがしまいが、行動すること自体が高校生たちを明らかに大きく成長させます。その成長と自立は、ロジャー・ハートの「参画のはしご」モデルを参考にすることでわかりやすく確かめることができます。

また、彼女たちには家庭・学校に続く第三のコミュニティがあったことも特徴的でした。それはななみにとっては海外留学であり、すずにとっては地元自治体のプログラムでした。家庭・学校・第三のコミュニティ、それぞれが関連しながら成長を導く生態系のような関係性が形づくられていたと言えます。こうしたエッセンスを引き出していただいた参加者各位の熱心なインタビューに心から感謝を申し上げます。

結論として2点まとめます。一点目は、ともすれば「高校生プロジェクト」が時代のブームの中で粗悪なインフレへと流れてしまうことの懸念です。自主的なプロジェクト活動を強制してしまうことは全く無意味です。二点目は、だからこそ私たちNPOカタリバは「高校生プロジェクト」のあるべき姿を問う場所として、全国高校生マイプロジェクトアワードを運営していくのだという決意の再確認です。

今年も300~400プロジェクトのエントリーを目指して生態系を拡げているところですので、よろしければWEBサイトをご覧いただければ幸いです。

全国高校生マイプロジェクト

https://myprojects.jp/


2017PCCラーニングスタジオ「高校生プロジェクトが誕生する生態系とは?」(今村亮 認定NPO法人カタリバ マネージングディレクター)

2017PCCラーニングスタジオ一覧に戻る