株式会社MetaMoJi代表取締役社長 浮川和宣

MetaMoJi Noteや MetaMoJi Shareという手書きノート・共有アプリケーションで知られる MetaMoJiは、手書き認識入力システムである mazecも提供するなど、手書きによる可能性を広げようとしていることが伺われる。教育現場での様々な取り組みも見られ、同社がどのように教育を支援しようとしているのか、また、子どもたちに何を提供しようとしているのか、代表取締役社長、浮川和宣さんにお聞きした。
(インタビュアー:CIEC会誌編集長 中村泰之)


※ Special第3回は、CIEC会誌『コンピュータ&エデュケーション』(Vol.38)の巻頭INTERVIEW(pp.3-9)を、3号(上・中・下)に分けてお送りします。今回はその「上」です。


今回インタビューさせていただくにあたって、活用事例がたくさん掲載されていましたのでそれを拝見すると、ツールというのは本当に色々な可能性を持っているということを感じます。


私はまだほんの入り口で、携帯電話が今なかったらどうするのだろうか、と思うのと同じように、二十年経ったら「二十年前はよくそれで生活していたね。」というふうになると思います。


私も印象深く思い出しますが、携帯電話が出てき始めた当時に、十年後二十年後には名刺くらいのサイズ、あるいは薄さの携帯電話が出てくるだろうと言われ、実際にそれに近いものが出てきました。今では予想しないことが十年後二十年後起こるのだろうなと感じます。


特に最近言われているのは、発明大爆発の時代ということです。今までものすごく発展していていろんなものが発明されて、世の中便利になっていったと言うのですが、これから十年二十年のことを考えると私たちはまだその結果を見ていないのですけど、生活は変わるでしょうね。ですから想像力であるとか、人間の基礎力のようなものを、どのようにつけておくかが大切だと思います。予想がつかないような時代がこれからやってくると、何を頼りにしていくかというと、人間の生活に対する力ということになりますよね。おそらく問題解決力ですとか、新しいものに対する興味がどのくらい強いかなどでしょうか。

発明大爆発の時代に必要な人間の基礎力


新しいものを拒絶する人もたくさん世の中にはいらっしゃいますけれども、そういうスタイルだとなかなかその時代に追い付いていけなくなります。何か確定してから使うということも安全かもわかりませんが、面白味はなくなるかなと私は思うんです。世の中の人たちがこんな新しいものができたと言うと、私は早く飛びついて使ってみたいと。できるだけ未来を見て、 「あぁ、面白い時代がこれからまた来るな」と思いながら生きたいですね。そのために、できるだけ最先端のもの、こんなものができたら面白いねと、会社の研究者に常に言い続けているんですが、そうすると彼らが「社長、これ動き始めました」と言うと、ドキドキしながら、使えるようになったのは世界中で自分たちだけだなぁと。私たちのものがそのまま世界で伸びていくか分かりませんけれども、こういう時代に絶対なるね、というふうにみんなで言い合うんですよ。


好奇心がいつまでたっても絶えないというのは本当に見習わないといけないですね。


特にソフトウェアを作るプロセスでは、基本的には物理的に物を作るプロセスはほとんどなくて、頭で描いてプログラミングをして実行させれば目の前に現れてくるわけですので、非常に幅が広くて、さらに先を読んで、新しい研究をして、それが使えるようになるというところがかなり面白い。本当に素晴らしい分野にいるなと思っています。

MetaMoJi Share for ClassRoomを活用した協働学習


今日はソフトウェアのデモンストレーションをしていただけるのですね。


(早瀬雅之:株式会社MetaMoJi営業部ディレクター) ここにある端末には MetaMoJi Share for ClassRoomというのがすでに導入されていまして、それを使って今日のデモをさせていただきたいと思います。


私の方が先生役になっていますので、生徒側の端末をすべてこちらでコントロールするようになっております。私がレーザーポインターで指すと、同期して、ここを今説明しているという形で皆さんの端末にも指された内容がわかります。実は今、徳島でも同じことが起こっています。同じ資料を読んでいれば、こちらで説明したことがリアルタイムに相手側に伝わっていくということです。今は私が先生役なので、皆さんは端末には書き込みできない状態になっていますが、後々皆さんに書いていただくということもできますし、他の方に先生役を渡して説明していただくなどということが簡単にできます。また、mazecという手書き文字認識を中心とした、効率よくデータを入力できる仕組みが備わっています。


手書き入力というのは、子どもからお年寄りまで誰でもできる入力方法ということで、キーボードを覚える必要が無いんです。文字が書ければ、漢字とは言いません、平仮名が書ければいいんです。


わからない漢字を平仮名で書いたり、漢字と平仮名を混ぜて書いていただいたとしても欲しい文字が出てくる。ただ教育向けとなると、逆に漢字変換されると困るという問題があるのです。習った漢字しか出してはいけないので、小学生向け、中学生向けに出す字を絞ったり、仮名漢字変換をしないモードを作ったりしています。


小学校三年生でしたら、小学校六年生の漢字は出ないだとか、そのような設定が可能です。


それから、紙とペンのように自由自在にこのタブレットに書くことができます。企業だと PDFで作成した資料がけっこう最近多いので、 PDF文書を読み込んで、そこにいろんな書き込みをすることも可能です。カリグラフィペンなどペンの種類もたくさんあります。また録音、再生機能がついていて、書き込みするとタイムスタンプが取れ、ここに書いた時点から録音したものを再生するというような、メモと録音の同期の機能が入っています。


ここまで高度な機能を持ったノートソフトが、全 OS、モバイル OSにそろっているのは世界的に見てもこれだけなんです。 iPadで作ったものが Windowsで開いたりだとか、あるいは企業ではどういう端末をお持ちの方かわかりませんので、その中で PDFというデータを送り、それを開いて書くことも自分のマシンが何であっても使えるというのは事実上唯一、私たちのソフトウェアだけなのです。


教育現場でいうと、小中高では導入するマシンというのはだいたい決まっているんですが、大学になると持ち込みが多くなってきて、 Androidを持っていたり iPadを持っていたり、また Windowsマシンを持っていたりするので、このソフトさえ入っていれば資料を PDFで配布して、そこにメモ書きができます。


スマートフォンでも見られますので、画面はちょっと小さいのを我慢していただいて、ぱっと何かのセミナーに参加しても、スマートフォンを持っていたら大丈夫ということですね。


では、 MetaMoJi Share for ClassRoomを、徳島を交えて、デモさせていただきます。今ここにたくさんの端末がありますが、すべての端末が連動して動きます。基本的に画面共有というソフトなんですが、教室で使えるように、かなり味付けをしてあります。全員の端末が連動して、先生がすべての生徒に教えていくというようなケースもあれば、個別に自分の課題をまとめて後で発表させるというケースもあります。最近増えてきているのはグループ討議をして、その結果をまとめて発表させるという協働学習です。例えば、以前行われた三年生の授業では、わが町のプロモーションをしなさいというテーマでした。子どもたちは街に出て取材して、それをまとめて、以前はノートや普通の紙に書いていたものを、MetaMoJi Shareに書くということをやっていただきました。


便利な機能だけど、画面の隅っこにあるこんな小さなアイコンでも、ちゃんと使ってくれるんですよ。工夫をして、ちゃんと見つけて。


小学3年生の作品

先生は 10分くらい使い方を教えて、それだけです。その後に自由に書かせてもこんなものができてきます。先生の方が使い方がわからなければ、子どもの方が教えたりするということさえあります。


もうあっという間です。どの子どもを見ても子どもは天才だなと、私たちは思います。


本当に子どもは柔軟ですよね。


この続きは「第3回#2 人とコンピュータとの距離を近くした未来の教育を目指して(中)」をご覧ください。


第2回となる今回のSpecialでは、まだ黎明期ともいえる国内の先駆的事例として、(株)大学生協事業センターの「VarsityWave eBooks専門書学習ビューア」を英語のリスニング授業に活用し、明示的な成果を挙げた、広島修道大学でのケースをインタビュー形式で紹介します。

インタビューでは「単に紙をデジタルに替えただけ」ではない電子テキストの特長、すなわち本質的な付加価値について具体的な事例が紹介されています。外国語教育に携わる先生方はもちろん、電子テキスト導入を検討中の皆さん全員にとって有益な情報です。是非ご一読ください。

Special第2回「電子書籍導入の成功事例」


電子書籍・電子テキストはこれまでのPCカンファレンスでもたびたび議題にのぼり、CIECの会誌『Computer & Education』にも取り上げられてきた重要テーマの一つです。

しかしながら、成功事例として紹介されるもののほとんどは海外のケースであり、日本国内での普及への懸念から、テキスト採用に二の足を踏んでいる先生方も多いのではないでしょうか。

第2回となる今回のSpecialでは、まだ黎明期ともいえる国内の先駆的事例として、(株)大学生協事業センターの「VarsityWave eBooks専門書学習ビューア」を英語のリスニング授業に活用し、明示的な成果を挙げた、広島修道大学でのケースをインタビュー形式で紹介します。


インタビューでは「単に紙をデジタルに替えただけ」ではない電子テキストの特長、すなわち本質的な付加価値について具体的な事例が紹介されています。外国語教育に携わる先生方はもちろん、電子テキスト導入を検討中の皆さん全員にとって有益な情報です。是非ご一読ください。

広島修道大学 針持和郎 (写真:左)
(聞き手: 産業能率大学 小野田哲弥)


2015PCカンファレンスのシンポジウム2では「電子書籍の現状・課題・挑戦」が議論されました。どのようにお聞きになりましたか?


Dr.Hanleyが報告した通り、米国では学校間連携と安価を武器に、徹底したマーケティングによって電子テキストが定着しつつあります。しかし我が国では、教科書検定といった制度的障壁や、和書(世界的なマーケットが期待できない日本語)の問題などによって同様の普及が難しい環境にあると思います。


つまり、日本において電子テキストの普及は難しいと?


いいえ、そうは思いませんが、「単にデジタルに替えただけ」では意味がないと思います。紙媒体にはない新たな付加価値、例えばセミナー1で紹介された「アクセスログ」や、セミナー3で紹介された「動画コンテンツ」などを活用すべきです。


具体的にご説明いただけますか?


私が広島修道大学で担当したリスニング中心の英語授業を例に説明しましょう。教科書は2014年度も2015年度も同じ『Starting on the TOEIC Test』 を使いました。ですが、去年はCD付の従来型テキスト、今年は電子書籍の専門書学習ビューアを用いたという違いがあります。


これがその「VarsityWave eBooks」という専門書学習ビューア(以下、ビューア)です。活字や写真など視覚的にはまったく一緒なのに、その教育効果の差は、私にとっても予想以上でした。去年と比較して、期末試験のクラス平均が100点満点換算で12点以上もアップし、欠席率も3分の1に激減したからです。


それは偶然にしては大きすぎる違いですね。いったい何が成功の要因だったのでしょうか?


大きく3点挙げられると思います。1つ目は英文と発音とのリンクです。去年までのCD版では、CDプレイヤーを持っていない学生が過半数でしたし、たとえ音声ファイルを音楽プレイヤーにダウンロードしたとしても、教科書とは異なるメディアを同時に使わなければならず、かなり煩雑だったわけです。それが英文が出ているのと同じ画面上で、いとも簡単に聴けるわけですから、予習の段階でわからない部分を繰り返し聴くのだってストレスになりません。


英語のリスニング学習というと、イヤホンをしながら教科書片手にプレイヤーを操作する姿がまず思い浮かびますが、一つのメディアで一緒にできたら効率的ですね。


また、教科書上では音声が文字化されていない部分も結構含まれていますが、下図のようなパワーポイントファイルを教員が自作して、リスニング後の解答・解説の段階で「ここの音声部分ではこういうことを言っているんだよ」と視覚化してやることもできます。すでに画像と音声ファイルとしてデジタル化されているので、その準備はちょっとの作業で済みます。



なるほど。確かにそれは紙媒体ではできませんね。2つ目の成功要因は何ですか?


2点目は辞書とのリンクです。現在では電子辞書が当たり前なのに加え、ウェブ上に無料の辞書もあるとお考えでしょう。ですが、スペル入力が面倒なので、わからない単語を調べないで放置してしまう学生も少なくありません。このビューアはiPadの場合ですとディバイス内臓の電子書籍辞書と連携しているので、単語をポイントするだけであっという間に、しかも本物の辞書ですから例文なども詳しく調べることだってできます。


VarsityWaveではポイントして辞書が起動、意味などが表示される。


辞書を内蔵していないディバイスであっても、Wi-Fiがあればインターネット上の辞書サイトにアクセスし、コピー&ペーストで行けるわけです。


おっしゃる通り、瞬時に意味がわかるなら、英語が苦手な学生であっても飛ばさずに確認するでしょうね。2つの成功要因、どちらも納得です。最後の要因についても教えてください。


3つ目は教員サイドの利点です。このビューアではログを取ることができます。このログを活用することによって、多くの学生にとってどの単語がわからない単語なのか、どの発音が聞き取れないのかなどを定量的に把握することができるので、ポイントを絞った指導が可能になり、学生たちも授業の効果を実感できることに繋がっています。


先に述べた辞書リンク機能だけなら学生個人の自習ツールとして十分役立つかもしれませんが、教員と学生とのインタラクションこそが教育だとしたら、ログと学生の弱点を見ながら授業ができるというこの点が一番大きな成功要因だと考えています。


まさに冒頭で言われた「単にデジタルに替えただけ」ではない付加価値のお話ですね。辞書で調べられる頻度が高ければ、多くの学生が苦手とする英単語だということになりますし、何度も繰り返し再生された部分なら、聞き取りが難しい表現ということになりますものね。その他にログから得られる有益な情報としては何がありますか?


たくさんありますよ。ビューアを起動した日時や閲覧時間数(秒単位)、何章のどのページを開き、どの音声データを何回再生して聴いているか等。それらから、彼らが授業の復習をいつ行い、どのくらいの学生が予習をしているかまで把握できます。


いわゆる「反転学習」ですね。反転学習のログを活用できれば、さらに適切な指導ができそうですね。


2015PCカンファレンス(富山大学)ポスター発表で説明中の針持氏

はい、そこが大事なところです。ビューアのログデータと試験の解答データを突き合わせて、例えば、正解率の低い問題を語学的に分析して、何を教えなければならないか、どのように教えたらいいのか、といった知見を蓄えて、それを大学の枠を超えて共有化できたらと考えています。


そんな「オープンデータ」があったら、日本の英語教育の形も大きく変わりそうですね。今日インタビューさせていただくまで、電子書籍に対して、紙媒体をPDF化したものに過ぎないような誤った認識を持っていましたが、「発音再生機能」「辞書との連動」そして「アクセスログの活用」というお話を伺い、目から鱗が落ちました。また、それらの付加価値の実現においてキーとなるのが「ビューア」であるという点も理解できました。


そうですね。「VarsityWave eBooks」という専門書学習ビューアの存在が大きかったのは間違いありません。また今回は、英語教育という分野に限ってデジタル教科書が持つ可能性の一端を紹介しました。したがって、どの分野にも通じるわけではありませんが、いずれにしてもICTを活用してこれまでにない付加価値を生み出すことが、電子書籍のマーケットを切り拓く上で不可欠な要件でしょう。


日本で出版されるテキストは言語の関係でマーケットが限られているということはありますが、ご存知のように2020年までに小学生1人に1台のタブレットをという文部科学省の方針もありますし、各地の実践事例もたくさん報告されていますから、次第に大きな流れになるものと確信しています。


日本にも電子書籍の明るい未来が訪れそうな予感を感じました。針持先生、貴重なお話をありがとうございました。