場所: 株式会社内田洋行「東京ユビキタス協創広場CANVAS」


CIECは1996年に誕生し、今年20周年を迎えました。20年の歩みを総括し、学会・教育界に果たした貢献を整理するとともに、次の10年への方向性を検討し、問題提起と課題設定を行うことを目的に、2016年3月27日(日)に20周年記念シンポジウムを開催しました。


※ Special第4回は、CIEC20周年記念シンポジウムのダイジェストを、4号に分けてお送りします。今回はその第1号として、開会式、基調講演、シンポジウム後の懇親会の様子をお伝えします。


シンポジウム開会式


挨拶 熊坂賢次 CIEC会長理事 (慶應義塾大学教授)


熊坂賢次 CIEC会長理事 (慶應義塾大学教授)

最初に熊坂賢次・現会長より、「CIEC設立10周年記念号」として約10年前に発行された会誌『コンピュータ&エデュケーション』(Vol.22-23)の内容をもとに、佐伯胖・元会長の「教育よりも学び」という視点や、妹尾堅一郎・前会長の「次世代教育イノベーション」という歩みの先に、今回「教育と学びにおける創造性と多様性」というテーマで20周年記念シンポジウムが開催される旨の挨拶がありました。


挨拶 大久保昇 CIEC団体会員理事 (株式会社内田洋行 代表取締役社長)


大久保昇 CIEC団体会員理事 (株式会社内田洋行 代表取締役社長)

つづいて、本シンポジウムの後援団体である株式会社内田洋行の大久保昇社長より、会誌『コンピュータ&エデュケーション』(Vol.25)の巻頭インタビュー「コンピュータ利用教育,その過去・未来」の取材を受けた時の話や、本会場「東京ユビキタス協創広場CANVAS」のコンセプト紹介、そして20周年記念シンポジウムとCIECの益々の発展に寄せる期待の言葉をいただきました。


祝辞 毎田伸一 (全国大学生活協同組合連合会 専務理事)


毎田伸一 (全国大学生活協同組合連合会 専務理事)

祝辞は全国大学生協連の毎田伸一専務より頂戴しました。

20年以上前、国内ではほとんど理解されていなかった「アカデミック・ディスカウント」を大学生協が取り入れた際、大学教員をはじめ、もっと幅広い知見を取り入れたいという目的で発足したのが1994年のPCカンファレンスであり、それが2年後のCIEC設立のきっかけになりました。

20周年を迎える間にCIECの中に生協職員部会もできました。このようにCIECと大学生協とが相互に良い距離感にあることを祝い、これからも大学生協連としても努力を重ね、引き続きCIECを支えていきたいという抱負をいただきました。


基調講演「未来の教育」
鈴木寛 (東京大学教授, 慶應義塾大学教授, 文部科学大臣補佐官)


基調講演は「未来の教育」と題して、東京大学教授、慶應義塾大学教授、そして文部科学大臣補佐官でもある鈴木寛氏にご登壇いただきました。


鈴木寛 (東京大学教授, 慶應義塾大学教授, 文部科学大臣補佐官)


はじめて「教育の情報化」が議論された20年前


CIEC発足の頃、通商産業省機械情報産業局の情報処理振興課、その後、電子政策課の総括課長補佐をされていた鈴木氏より、初めて教育の情報化が議論された1994年の「高度情報化プログラム」や、1997年まで3年間行われた「100校プロジェクト」などの事例が“温故知新”として紹介されました。


「情報教育の教科化」に奔走


その後、鈴木氏が注力したのが「情報教育の教科化」でした。文部科学省との板挟みの中で苦労を重ねられ、1999年に高校における『情報』の必修化を実現。そして現在、再び教授として教鞭を執っているSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)において、ついに今年(2016年)、入学試験科目に『情報』を加えることができたことへの感慨深さが語られました。


「アクティブ・ラーニング」と「大学希望者学力テスト」


鈴木寛 (東京大学教授, 慶應義塾大学教授, 文部科学大臣補佐官)

現在、文部科学大臣補佐官としても活躍する鈴木氏は、2020年の学習指導要領改訂のキーワードを「アクティブ・ラーニング」と位置づけた上で、「どうやって指示待ち人間を脱するか」が最大の課題だと述べました。

つまり、知識技能に寄り過ぎてきた学びを、思考・判断・表現に重きを置き、主体性・多様性・共同性の実現に繋げたいという考えを示しました。

そして現在のアクティブ・ラーニングの大前提としてICTがあることにも触れ、2020年に開始予定の「大学入学希望者学力評価テスト(仮)」に対しても、いずれはコンピュータベースでAIと一体になったIRT(項目応答理論)型のものに発展させていきたいとの希望が語られました。


懇親会


全国大学生活協同組合連合会にCIEC20周年感謝状の贈呈


左:毎田伸一 (全国大学生活協同組合連合会 専務理事)、右:熊坂賢次(CIEC現会長)

懇親会の開宴に先立ち、設立の準備段階から始まり、設立後も最大の団体会員としてCIECの活動発展に貢献してきた全国大学生活協同組合連合会に対し、感謝状が手渡されました。


乾杯の挨拶 奈良久 CIEC初代会長 (東北大学名誉教授)


奈良久 CIEC初代会長 (東北大学名誉教授)

乾杯のご発声は、CIECを設立から学術団体会員となるにまでに発展させた最大の功労者である初代CIEC会長の奈良久・東北大学名誉教授よりいただきました。その後2時間にわたる懇親会が盛大に催されました。


※ この続きは「第4回#2 CIEC20周年記念シンポジウム(2/4)」をご覧ください。


2016年5月29日(日) に、立命館大学大阪茨木キャンパスにて、CIEC外国語教育研究部会 第9回学習会を開催いたします。テーマは「小学校から高等教育機関までの外国語教育の接続:ICTがどのような役割を果たせるか」です。

参加申し込みは、告知ページのフォームから行えます。みなさまのご参加をお待ちしております。


概要

iPad等のモバイル端末を参加者に持参してもらい、アクティブ・ラーニングの実践者5名による教育実践例の紹介やアプリケーションの活用事例を中心としたセミナーを実施します。各自のICT活用の外国語教育・学習の事例報告後、全体会で討議します。


Special第3回は、CIEC会誌『コンピュータ&エデュケーション』(Vol.38)の巻頭INTERVIEW(pp.3-9)を、3号(上・中・下)に分けてお送りします。その締め括りとなる第3回目「人とコンピュータとの距離を近くした未来の教育を目指して(下)」を公開しました。ぜひご覧ください。


MetaMoJi Noteや MetaMoJi Shareという手書きノート・共有アプリケーションで知られる MetaMoJiは、手書き認識入力システムである mazecも提供するなど、手書きによる可能性を広げようとしていることが伺われる。教育現場での様々な取り組みも見られ、同社がどのように教育を支援しようとしているのか、また、子どもたちに何を提供しようとしているのか、代表取締役社長、浮川和宣さんにお聞きした。(インタビュアー:CIEC会誌編集長 中村泰之)

※ Special第3回は、CIEC会誌『コンピュータ&エデュケーション』(Vol.38)の巻頭INTERVIEW(pp.3-9)を、3号(上・中・下)に分けてお送りします。今回は締めくくりの「下」です。



ところで、現在 MetaMoJiは設立されてから約 5年ですが、設立当初どのようなことを理念に掲げて出発されたのですか。


私たちの MetaMoJiのいくつかの基本経営理念があるのですが、基本的には、コンピュータと人間との距離をもっともっと短くしたいということを考えています。使い勝手がいい、よくしたいということです。日ごろの生活をしている中で、コンピュータがインターネットに繋がると、ものすごい世界がありますが、まだ使い勝手が悪いとか、使いにくいとか、あるいはこういう機能があれば全体が使いやすくなるとかというものがあります。 mazecを作ったのも特にそうなんですね。例えば、店頭で、登録用紙に住所や名前などを書くことがありますが、後でコンピュータに入力し直す必要はなく、その場で登録が可能なのです。それで、老若男女誰でもできる日本語入力というものをつくろうということになりました。世の中まだまだ新しい時代になると、そのような基本的な概念がずっとあって、そしてさらに新しい技術を使うという掛け算をするんですね。

理想と技術の掛け算でコンピュータと人間との距離を短くしたい


私は前のジャストシステムという会社をつくった時から、 ITはどういう人たちに使っていただいたらいいかなということを考えていて、その解答の一つが学校の先生なのです。未来を支える子どもたちにいろんなことを学校の現場で教えるために、先生達がいろいろと工夫をされてます。こういう新しい ITパワーを持てば、子どもたちへの教材とか教え方とかいろいろ変わるだろうと思います。今度は学校での授業の仕方として私が個人的に思っている一番の理想は、一人の子どもに一人の先生という環境です。


今は個別学習の必要性も言われていますね。


徹底して、例えば 40人子どもがいると 40人の先生がいたらいいんじゃないかと。だけどコストのこととか、システムとしてそれは不可能です。でも、 MetaMoJi Shareなどを使って、できる限り一人一人の子どもと一人一人の先生との対話が、常に 40分の授業全部できるわけじゃないですが、ある必要なときにはできたりとか。


中村泰之(CIEC会誌編集長)

このスピードでお互いに書くことができるんですよ。これはアメリカでもロンドンでもどこでも可能です。インターネットさえつながっていればこのスピードで出来ます。例えば、子どもが病気で入院すると、授業に遅れるとよく言われますけども、やりようによれば例えば一か月間、その子どもが毎日授業に参加することがほぼできるんじゃないかと思うんですね。


今デモさせてもらった時に、すぐそこに先生がいらっしゃる、遠隔地であってもすぐそこに先生がいらっしゃる、そういう感覚がありましたが、それこそが生徒一人一人に一人の先生がつくということにつながるんでしょうね。


それから、先生も決して一人ではなくて、複数の先生がこの教室のバーチャルの一つのなかにいらっしゃってそれでいろいろ分担するという考え方もあると思うんです。学校と学校を結んで、日本とアメリカなんか面白いかもしれませんね。小学校六年生くらいになると片言の英語がわかるようになり、アメリカでは何か日本に興味がある場合など、面白いかもしれません。


海外在住の日本の子供は、通常は現地の学校に通い、週末は日本人学校に行く場合がありますが、日本人学校も、全国各地にあるわけではないので、そういう場合にも便利じゃないかと感じました。


時差のことはどうするかは課題ですが、例えばシンガポールだと日本人家庭がたくさんあり、あまり時差もないですから、日本の学校の授業がそのまま受けられるとかですね。


来るべき未来を待ち構えた準備


MetaMoJiが設立されてから、すぐに iPadが発売されました。


そうなんです。実は iPadが発表される三か月くらい前に会社をつくったんですけど、その時はまだ Windows PCオンリーで最初は考えていたんですが、iPadが出ましたので、これはすごいと。本当にめぐりあわせです。運が強いから。


この iPadが出た頃に、子どもが iPadを操作している写真であるとか、ご高齢の方が操作している写真というのをよく目にしたと思うんですが、本当にそれは人とコンピュータとの距離が近くなったということの象徴だと思うんですね。それが本当に、社長の理念と重なっていますね。


ハードウェアがこのようになり、 Wi-Fiでインターネットと繋がって、自由にいろいろなことができますが、私が思うのは、このハードウェアやインフラにより改革された新しいものに、まだソフトウェアは追いついていません。全然、まだまだです。


今日聞かせていただいただけでも、素晴らしいと思いましたが。


技術をものすごく研究して、一種の理想像を掲げるわけですね。だけど、どういう理念やどういう方向感で、また、そこに向かってこの技術はこういうことだという研究をしないといけないと思います。人間とか研究者とか、あるいは研究のコストもやはり限界があるものですから、十年後、二十年後、三十年後の理想を描いて今できることをやるということです。


その理想理念がコンピュータと人間との距離。


はい。それはあまりにもすごく抽象的な表現ですけども、その中で色々なテーマ、私たちでしたらまず日本語の入力を一生懸命三十年くらい研究してきたんですが、キーボード自体が非常に難しい。どうして Aのとなりに Bが来ないのとか。初心者にはそうですから。色々な PC教室とか、最近はタブレット教室があるんですけれども、やはりどの先生に聞いてもキーボードの入力が大変なんです。そこを教えて次に何かやってみることになるのですが、最初はそれができないものですから、もっと単純な、タップだけで出来るソフトしか教えないんです。そうすると E-mailも書けなかったり、写真は簡単で面白いけど生活から遠いようなソフトウェアを教えることに限定されてしまうんです。だけど iPadで mazecが IMEとしてどのソフトでも使えるようになりましたので、全国のいわゆる PC教室あるいはタブレット教室の先生たちは、今 mazecを使うように変わりつつあります。そうすると手で書いて一分くらいデモだけすれば、みんな書いています。それで E-mail動かしてみましょう、じゃあブラウザで何か検索とかやってみましょうと。検索の言葉を入れるのがキーボードだと大変でしたけど、書けばいいんですから。


iOS8からサードパーティのキーボードが利用可能になりましたけど、それも本当にタイミングが良かった。


いや、これやっと実現したんです。 4年くらいかかりましたけども。ですから、いろんな環境とか OSやインフラとかがどんどんどんどん新しくなっていくのですが、それに対して待ち構えているわけです。これがこうなったら、こんなことができる、あんなことができるとか。


待ち構えているということは、それまで常に準備していると。


そうです。それは大変なんですよ。待ち構えているということは待ち構えている間ビジネスになりませんから(笑)。そこは、想像力とか自分たちの理念とか概念によって、この方向で今はできてないけど、ここまでハードウェアやインフラあるいは CPUのスピードとかメモリとか進歩すれば、自分たちの研究しているものは世の中に出せるぞと。中には空振りで、まだだったということも結構あるんですが。 IMEも二年くらい前に実現するんじゃないかと期待したんですが、やっと去年できたんです。本当に技術、それから研究、理念、理想、特に理想はどこにあるかだと私は思いますね。理想が実現したらどういう人たちがどう便利になるのか、どのように新しい人生を送れるのか、例えばそれが二年経ち五年経ち十年経ち二十年経ち、ものすごく大きな影響を与えますもんね。


mazecにしろ、 MetaMoJi Shareにしろ、手書きということにすごくこだわりがあるように思うんですが、やはり、手で書くということの重要性は社長のこだわりですか。


つくったからというわけでなくて、手書きこそ、 iPadで本当の新しい入力もできるでしょうし、手で書くのであれば絵を描くにしても何にしても、自由ですよね。人間の頭で考えたことが右手左手、指先と直結してますよね。よくインタビューのときに、インタビューを一生懸命考えながらこう書いていますよね。そうすると、書くことをほとんど忘れています。何をインタビューしようと殴り書きでもいいですから書けますよね。それくらいノート、指先というものが文字を書くことにおいては言葉で言い表せないくらい直結している。あるいは直結というよりはドアなんですよね。頭は他のことを考えてもちゃんと書ける。

未来の子どもたちのことを考えて、現場の声を取り入れた開発


それでは最後に、今後どのような方向性で開発、あるいは教育に貢献していこうとお考えか、お聞かせいただけますか。


MetaMoJi Shareあるいは Noteにしても、まだ最初のバージョンです。やはりこれからは、現場の先生方にお使いいただいて、いろいろ教えていただいたり、もちろん私たちも一生懸命考えて、これだと使いやすいだろうとか、こういうときにはこれがあった方がいいんだよとかを追求していきたいと考えています。先ほどの、「先生に注目!」という機能は面白い機能ですが、現場からの声でした。これはこんなに人気のある機能だと驚くんですが。


これは現場からの声だったんですね。


まだまだそういうものが出てくると思います。で、さらにおそらく遠隔地の、それこそ象徴的ですが、離島の子どもたちと都会の子どもたちが共同で作品を使って授業を始めれば、もっとこういうことがあればいい、ということが出てくるかもしれません。 ITというのは、ものすごい可能性があります。それをものすごく遠くのものではなくて、自分たちの学校であったり、授業であったり、子どもたちと先生との関係とか、そういうものにもっともっと新しい可能性を広げていけるんじゃないかと思いますね。何がそこで私に見えているのかはわかりません。ただそちらに未来は絶対あるだろうし、より良い世界は絶対そちらの方にあるだろうと。先生が子どもたちに教える一つの教室に一人の先生がいらっしゃって、一生懸命頑張って授業を行うことが何年もずっと続いてきたことですけども、本当に新しい環境が生まれましたから、これからは誰でも、インターネットが繋がったことによってもっと違う、より本格的な、新しい未来を創るんだという気概でみなさん一緒に働いていますね。それは全部、子どもたちのためですね。すべては子どもたちのためになると私は思っていますし、そのために何を、どういう技術を入れるべきかが重要だと思いますね。


ある先生は、 MetaMoJi Shareは、これこそ 21世紀型の黒板でありツールであるというふうに評価していらっしゃいますけども、本当にそれは社長の意を得ていると。


そうですね。本当の意味で瞬間瞬間に全方位、全員が意見や刺激をお互い与えられながら、濃密な時間を共有するということです。みんなが集まれる時間は限られているわけですから、その時の集中力はこういうツールがあると一気に上がるだろうと。


全方位というのは教室の中だけというよりも、本当にもっと広い空間ということでしょうか。


広い空間というより、お互いにということですね。ですから、一対一でもなくて、一対多でもなくて、全員がお互いにメッシュのような状態で、誰かがこう考えている、それに対して私が意見をいうと瞬間に全員に伝わっていくということです。


本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。


ありがとうございました。


3号に分けてお送りしてきた「人とコンピュータとの距離を近くした未来の教育を目指して」は、今回の記事で終了です。お読みいただきありがとうございました。次回のSpecial記事にもご期待ください!