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2021PCカンファレンスは、8月20日 (金) 〜23日 (月) の4日間に完全オンラインで開催されます。さまざまな企画が用意されていますので、Special企画「2021PCカンファレンス特集」としてご紹介します。

本記事では、8月20日 (金) に行われる、基調講演1 (10:15〜12:00) と、シンポジウム1 (13:30〜15:30) の内容をお伝えします。


基調講演1 (8月20日 10:15〜12:00)

進む教育の「個性化」– 学習パラダイムのさらなる促進と高まるICT利用を踏まえて –


溝上慎一 (学校法人桐蔭学園理事長/桐蔭横浜大学教授・学長)

小学校から大学までの全学校種で、アクティブラーニングや主体的・対話的で深い学び、探究的な学習・PBLなど、学習者主体で構成主義的な学習パラダイムへの転換が進められている。コロナ禍とともに始まった GIGAスクール構想、オンライン学習はこれまでのICT利用をいっそう加速させるものである。当日は、この教育の展開を学習者の「個性化」の観点からまとめ、関連するさまざまな教育的取り組みを位置づけ、10年後の教育・学習を展望する。


創造性の民主化時代 – 21世紀を躍動させる “プレイフル STEAM” の哲学 –


中島さち子 (株式会社 steAm 代表取締役社長/音楽家/数学研究者/STEAM 教育者)

変化が激しい今、学び方働き方生き方が問われ直している。世界では STEM / STEAM による学び変革が躍動しているが、キーワードはやはり探究型・実践型・教科等横断型であり、「科学者のように考えエンジニアや芸術家のように創る」探究姿勢や誰しもに眠る創造性や創造の歓びを開くことが重視されている。本講演では,近年の国内外の多様な STE(A)M 探究事例と底流に流れる思想を紹介する。


シンポジウム1 (8月20日 13:30〜15:30)


2030年のニューノーマル:新たな教育・学習を語るキーワードから未来を描く

パネリスト

  • 溝上慎一 (学校法人桐蔭学園理事長/桐蔭横浜大学教授・学長) 写真左
  • 中島さち子 (株式会社 steAm 代表取締役社長/音楽家/数学研究者/STEAM 教育者) 写真中央
  • 伊藤羊一 (Zホールディングス株式会社 Zアカデミア学長/武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長) 写真右
  • 司会 若林靖永 (京都大学経営管理大学院経営研究センター センター長・教授/CIEC会長理事)


2021PCCのテーマは「ニューノーマル時代の教育・学習」。言うまでもなく、テーマの背景にあるのは、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大です。ただし、「ニューノーマル」という言葉に、現在の危機を乗り越えると同時に、明るい未来を作り出そうとする決意を、私たちは込めています。

さて、教育・学習の“明るい未来”をどう描いていくか? このシンポジウムでは、教育の最前線で活躍中のパネリストたちが提案する「新たな教育・学習を語るためのキーワード」を起点に議論を始めます。そして、「2030年のニューノーマル」を意識しながら、教育・学習の “明るい未来” を構想してみたいと思います。



この他にもさまざまな企画が用意されています。どうぞご期待ください。

なお、参加には事前のお申し込みが必要です。詳しくは、2021PCカンファレンス公式サイトをご覧ください。みなさまのご参加をお待ちしております。

執筆 : 角南北斗 (2021PCカンファレンス広報担当)


CIEC会長の若林靖永教授 (京都大学経営管理大学院経営研究センター長) が、CIEC会員を中心にユニークな研究や実践に取り組む方々をインタビューする企画の第8回を公開しました。

会長インタビュー #8 近藤雪絵さん(立命館大学薬学部准教授)

今回は、立命館大学薬学部で英語教育を担当されている近藤雪絵さん(立命館大学薬学部准教授)にインタビューを行い、薬学部の専門教員と協働して行う英語教育や学生が動画を作成することを通じた英語教育の研究及び実践について伺っています。

ぜひご覧ください。


CIECには多様な専門性を持った会員が所属しています。会員の専門分野や教育実践について、インタビューをもとに紹介するのが「会長インタビュー」です。 

8回目は立命館大学薬学部の近藤雪絵さんにインタビューを行いました。近藤さんは、薬学部の中において、薬学の専門教員と協働して英語教育を行っており、また動画を用いた英語教育の研究及び実践をされています。

(インタビュー実施 2021年5月20日 編集: CIEC広報・ウェブ委員会 橋本諭)


写真右上 若林会長 写真下部近藤さん 左上聞き手橋本


プロジェクト発信型英語教育とは?


近藤さんは、立命館大学の薬学部に所属されていて、英語教育を担当されています。現在、大学における英語教育については様々な課題があると思います。アカデミックな英語論文が読めること、書けること、発表できることといったEAP(English for Academic Purposes)を目標にする大学もあれば、一般企業で働くためのEGP(English for General Purposes)を行う必要がある大学もある。

それぞれの状況に応じて目標設定や課題が異なり実施する内容が変わってくると思いますが、立命館大学ではどういった取り組みを行っていますか?


立命館大学薬学部では、「プロジェクト発信型英語プログラム(Project-based English Program: PEP)」を実施しています。プロジェクト型で自分の興味関心を追求すること、発信を行うところに特徴があります。

薬学部では1回生から3回生の前期までの5ターム必修(以降は選択科目)として設定されています。3回生では英語教員だけではなく、学部の専門教員が共に参加して授業を行っている点も特徴です。

具体的な内容としては、学生自身が興味関心のあるテーマでプロジェクトを立ち上げ、テーマに関するリサーチを行い、成果を英語で発信します。

1回生のときは自分の趣味などの身近なテーマを取り上げることが多いですが、学年が上がるにつれて、薬学部で学んでいる専門分野に沿ったテーマを取り上げるようになってきます。そのため、EGP、EAP、ESP(English for Specific Purposes)といった様々な側面を有したプログラムになっています。

※参考)PEPについての詳しい情報はWebサイトで紹介されています。


英語で発信を行うということは、英語をコミュニケーションの道具として意識させるということですね。

受験勉強に慣れてきた学生に、英語で勉強して英語で発信するというのは、マインドセットを変えること、英語を学ぶことの意味を意識的にリフレッシュさせることにつながると思いますが、このプロジェクトを通じた学習はどんな成果を感じていますか?


テーマを自分で決めることで、意欲的に学ぶという部分が特に鍛えられると思います。

立命館に来る学生の高校時代の学習は様々で、受験勉強で文法や単語等を学習している学生もいますし、プレゼンテーション等の発信力が鍛えられている学生もいます。

ただ、これまでは決められたテーマの中で行っていることが多いので、大学では自分でテーマを設定し、それを掘り下げていくことで意欲的に学ぶことが鍛えられていると思います。


今の学生だと、先生が正解を持っていてそこに近づける努力をするのが学習だと思っていることがありますが、自分たちでテーマを設定するのであれば、正解はどこにもなくて、自分たちなりに納得できることや、説得的に主張できるストーリーを考えたり、主張をまとめられるかどうかが大事になりますね。

対象に向き合うのが学問の基本だと思うので、テーマを自ら決めて取り組むことを通じて学習に対する意識の変化があるのかなと思いますが、いかがですか?


その通りだと思います。

学生同士がディスカッションや発表をしながらテーマを固めていくのですが、その過程で学ぶ力、すなわちテーマを掘り下げながら、その成果を客観的に見つめ、他者にわかりやすく伝える力がついてきているなと実感しています。


PEPは1回生から3回生まであるということですが、どのようなステップになっていますか?


PEPでは、1回生から3回生までのロードマップが作成されています。ロードマップでは、各タームごとの到達目標や活動が定めてあります。

学習内容はタームごとに積み上げていく形になっていて、最初は個人で口頭でのプレゼンテーションからスタートして、グループを作ってディスカッション、アカデミックライティング、アカデミックポスターを使ったプレゼンテーションという形でステップアップしていくようになっています。

参考)PEPNAVIにおいてロードマップを含む授業内容が公開されています。


タームごとに獲得すべきスキルが定められていて、その学習目標に向かって毎回の授業においてやるべきタスクとか、アウトプットが設定されていて、一つ一つ積み上げていくような組み立て方になっているんですね。


グループ学習の問題点


学生がグループで取り組むときには、お互いにピアレビューができたり、ダメ出しできるようなグループになるかが大事ですよね。学生を見ていると、悪い意味での分業というか、単純に作業を分けるだけ、互いに積極的に質問したり助言したりしないといったことが起きがちですが、いかがですか?


その点は課題ですね。
PEPの授業で少しずつ教えていく必要があると思っています。

学生を見ていると、グループで課題に取り組むときには、フェアにしないといけないと思っていることがあります。不思議なのは、他の人が5しかやらないときに、自分も5しかやってはいけないと思っていることとかがあって。

そうじゃないよ、ってことを伝えています。 もちろん全員が貢献することが大切ですが、得意なことは人の10倍やってもいいし、苦手なところは得意な人に助けを得てもいいしと。


チームでプロジェクトを進めるときの悩ましい問題ですよね。

成果物のクオリティを上げることにフォーカスさせるというのは、授業として重要なことですね。


そう思います。
薬学部生は医療においてもチームで協力することが重要だと学習しています。医療以外の社会におけるチームでも、他者を信頼し、自分の専門性を発揮して協同することが大切だと、授業でもステップを踏みながら伝えていく必要があると思っています。


専門教員と英語教員が協働しながら授業を作るとは、具体的にどんなことを行っているか?


薬学部の専門の先生と協働で授業を行っている、というお話がありましたが、具体的にどのような役割分担とか、授業デザインを行っているんですか?


4回生向けの英語の授業が特徴的だなと思っています。4回生だと専門が分化していきまして、専門に合わせた英語教育を行っています。

たとえば、薬学科の学生に向けては「薬局での患者さんとの会話」を題材にしたり、薬の添付文章を題材として使っています。薬学部の専門教員は、薬の添付文章の読み方や重要なポイントを教え、英語教員は、文章へのアクセスの仕方や、単語やその覚え方、そしてプロフェッショナルとしての発信方法を教えています。

私は薬学部に所属する際に、学生が卒業後に医療の専門家になることや、製薬企業で働いたりする上で必要な英語を教えていく責任を強く感じました。しかし、薬学の専門知識や経験はありませんので、英語だからといって専門知識を教えてはいけないと考えています。そのため、専門分野の先生とチームをくんでやっていくことが非常に大切だと思い取り組んでいます。


なぜ、YouTubeをやっているのか?


近藤さんは、動画を使った英語教育というか、YouTubeを使った英語教育も取り組まれていますよね。これは、立命館大学薬学部の中での英語教育とつながっているんですか?


2020年のコロナ禍で、大学の授業がオンラインになったことは影響しています。ただ、その前から動画教材を作るという研究を行っていました。タイミングがたまたま合ったという形です。


作成されている動画は、オンデマンドで空いている時間に見てもらうことを狙っているものですか? それとも授業に紐付いていて授業の中で使うものですか?


両方あります。
「ふぁーま団子ちゃん」というのは、新型コロナの感染拡大により、授業がオンラインになった頃から継続的にアップしているんですが、これは、学生が余暇に見てもらうものとして作っています。

主に、エントリーレベルの健康や薬に関することを扱っています。たとえば、「絆創膏」を英語で「plaster」と言うのですが、案外知りません。でも、実際の場面ではよく使う単語です。そういったネタを団子のキャラが語るコンテンツとして作ることで、学生に日常的に触れてほしいと思っています。



もう一つは薬学の専門的な内容に関する動画で、これは新型コロナ以前から専門のメディカルドクターの協力得て、公開を始めました。
たとえば、「妊娠中の薬物治療」とか「授乳中の薬物治療」といった内容の動画を作っています。こちらは、授業外で見てもらう動画になっています。

メディカルドクターの先生が授業内に入ってこられない時でも、学生に事前に見てもらい、授業ではディスカッション等発展的な活動をしたり、留学に行く学生が事前学習の自習教材にすることを目指しています。

それ以外にも、学生が動画を作る側になることで学んでいくことの支援も行っています。




「ふぁーま団子ちゃん」の苦労


日常的に「ふぁーま団子ちゃん」のような教材が使えることで、特別なものではない日常的に身につく英語になりそうですね。反響とか、手応えはいかがですか?


実は、厳しい点がありまして。

私としては健康、怪我、医療についてやろうとしたんですが、これが人気ないんですね。 アレルギーとか、採血とか、血圧といった薬学に関するコンテンツのPVが全然伸びないです。


なんでだろう?


私も、なんでだろうと思いまして、色々と試行錯誤をしました。

「仮装してハロウィンパーティ」といったように、季節の話題を取り入れたり、歩みよったんですね。そしたら、PVが伸びました。


一般のキャッチーなものにして、こっそりと薬学テーマを入れるとしたほうがよい?ということでしょうか?


そうです。そうです。


つまり、薬学の内容をそのままYouTubeにしても美味しくないけど、きちんとチョコレートでコーティングしてあげれば、中にちょっと苦いものが入っていても食べてもらえるってこと?


まさにそうなんです。

秋に「栗食べ過ぎた」ってコンテンツを作り、その中に「この胃腸薬は消化不良に効くねん」というフレーズを入れておくことで、少しでも「消化不良」や「胃腸薬」といった、健康や薬に関わる英語を知ってもらおうとしています。


それは本当に苦労が伺えますね。


学生による動画を作ること、発信することの学び


学生が動画を作ることでの学びってのはどういうものですか?


最近、論文発表の際に「グラフィカルアブストラクト」としてアブストラクトを動画で提出することが増えてきています。

昨年度から、大学院の授業でその動画の作り方を扱いはじめました。研究は専門の先生に研究室でしっかり指導してもらっていますので、私はグラフィカルアブストラクトをアカデミックにかっこよく見せるための動画の作り方を教えています。

学生が作成した内容をYouTubeに貯めておくことで、後輩たちが参考にしながら自分たちも作成するといった良い循環が作れています。少し上の先輩が堂々とした発表を行っていることで、後輩たちも「自分たちも頑張ろう」となるようです。

YouTubeに公開を許可してくれた学生さんたちには本当に感謝しています。


学生が動画で発信するというのは面白いですね。

ドラゴン桜という漫画やドラマがありますが、ドラゴン桜2では「東大専科」の生徒がTwitterやYouTubeで発信しながら学ぶことを行っているんですよね。前作のときには、プロの予備校講師によるレクチャーでしたが、2になって21世紀型の新しい学び方にバージョンアップしてます。

近藤さんの取り組みも、アウトプットを意識したり、ゴールを意識した学習方法になっていますね。


動画をインターネット上に公開していることが大きいんですが、オーディエンスが拡がることを感じています。動画を作ることが、練習ではなく本番になりますし、世界に向けて発信しています。教える側としても、可能性がある分、気をつける必要があると思っています。


メディアとしてはどう感じていますか?

動画は今の学生にとって馴染みのあるメディアだから、本を読ませたいと思っても動画を選びますよね。

英語は、あるシチュエーションにおいて、心の動きがあってそれを伝えるための表現なので、動画は適していると思いますが。


良い面がある一方、危険な面もあるかなと思っています。

たとえば、以前は単語を覚える際にリストを作ったり、Quizletを公開したりしていたのですが、近年学生が動画を好む傾向があるようですので、最近は動画にしています。

ですが、動画は苦労しなくても流して見ることができるので、能動的に学習するという意味では適さない面とかもあるかなと思います。音声と映像とテキストの全てに触れられるのは大きな利点ですが。


なるほど。

私達世代だと、勉強といえばノートを開いて鉛筆で書くなんですね。でも、今は英語を書く場合キーボードで書いている訳です。音声認識の技術が進んできているので、口述筆記になるかもしれない。いずれにしても、手書きは少なくなっています。

そうすると、英語を学ぶのもはじめからキーボードで良いかもしれない。新しい道具を使った学習というのは、これからもどんどん増えると思うので、考えていく必要があるなと思います。


CIECに入ったきっかけやCIECの印象について


ところで近藤さんは、どういうきっかけでCIECに入会されたんですか?


同僚でCIEC会員の木村修平先生(立命館大学生命科学部)と共同研究したことがきっかけです。会員になったのは、2020年です。

全国大会(PCカンファレンス)に参加した際に、内容に惹かれたのと、雰囲気がとても良かったのが印象に残っています。

発表へのコメントも建設的なものが多くて、勉強になると思いました。


CIECは単一の専門領域で集まっている訳ではないので、お互いの専門領域から学び合っていくという雰囲気がありますね。

本日は、とても面白い話が聞けました。ありがとうございました。


ありがとうございました。